海底地殻変動観測

Last update: Thu Aug 31 02:56:19 JST 2006


■■■ 概要 ■■■


● 研究の背景

すべり・固着領域と観測風景の図 プレート境界型の大地震は、太平洋プレート、 フィリピン海プレート等の海洋プレートが、大陸プレートである 日本列島下に沈み込むことにより発生します。 非地震時(大きな地震と地震の間の期間)に、 海洋プレートが大陸プレートを引きずり込む場所(固着領域)と、 定常的にすべっている場所(すべり領域)とが存在し、 これらの分布が地震発生の時期や場所を支配していると考えられています。

固着領域近傍ではより大きい歪みが蓄積すると予想されるので、 非地震時の大陸プレートの歪み分布を調べれば、 固着・すべり領域の分布が推定できると期待されます。 実際に、日本全国に密に配置された電子基準点の地殻変動データ等から、 日本列島の歪み速度分布が得られており (例: 国土地理院のサイト)、 おおまかな固着・すべり領域の分布が明かになりつつあります。

しかし、大地震発生が想定される場所は海溝に近く、 この場所の固着・すべり領域の詳細を把握するためには、 日本列島から海溝に至る海域での地殻変動観測データが欠かせません。 また、地震発生時に海域の震源近傍での地殻変動観測データがあれば、 地震断層モデルの推定に大きく寄与することができます。 現在の試験観測が軌道に乗り、将来多くの海底観測点を確保できれば、 地震予測研究が大きく前進するものと考えられます。



● どうやって測定するのか

陸上での地殻変動観測は、従来の水準測量に取って代わり、 現在ではGPS測位が主流となりました。 そのため各地にGPSアンテナ局を設置することにより、 極めて効率的に日本列島の歪み蓄積過程をモニタリングすることが 可能となっています。これに対し海底では、 GPSの電波が届かないためこの方法は使えません。 従来からの海水中における測距方法として、 音波の到達時間を計測する音響測距があります。 そこで、GPS測位で位置をモニタリングできる海上の音響送信器(海上局)と、 海底に設置した音響受信器(海底局)との距離を音響測距で計測することにより、 間接的に海底の位置を知る方法が考案されました。

海上局である音響送信器は、観測船に直接取り付ける場合と、 船から曳航された小型ブイに取り付ける場合とがありますが、 いずれも海上での作業となるので、位置が時々刻々変ります。 そこで、キネマティックGPS測位という方法で、 音響送信器の位置を正確にモニタリングします。 海水の音速が予めわかっていれば、異なる3点で音響測距を行うことにより、 原理的には海底局の位置を知ることができます。 異なる時期に観測した海底局の位置がずれていれば、 それが、その地点での海底地殻変動量ということになります。


● 正確に測定するには

日本付近の非地震時の地殻変動速度は、高々年間に数cm程度なので、 1〜2年の期間で変動を検出するには、 2〜3cm程度の繰り返し観測精度が要求されます。 一方、地震時の変動は、地震断層の極近傍では数10cm以上になり得るので、 海底局の位置によっては10cm程度の精度での観測でも、 検出可能な場合があります。

しかし、実際の海水中の音速構造は、潮汐や海流、気象条件で時間変化し、 半日程度の間にも、測距距離にして1m程度の差が生じます。 そこで、(1)音速が変化しても海底測位に影響しない観測方法を用いる、あるいは、 (2)音速も未知数として扱い海底局の位置と同時に解く、 かのいずれかの方法を採用する必要があります。

三角形アレイの測距の図 海底測地のパイオニアである、 米国スクリップス海洋研究所のグループが考案した(1)の方法は、 3台の海底局をほぼ正三角形のアレイになるよう配置し、 各海底局のおおよその位置を測定しアレイの暫定位置を決めた後、 アレイの中心で3台同時に精密測距を行い、 アレイの精密位置と暫定位置との差を見るものです。 次回の観測でその「差」が変化していれば、それが地殻変動量となります。 この方法の利点は、アレイの暫定位置は不正確でもよく、 アレイ中心での同時測距中に音速プロファイルが変化しても、 アレイの見かけ深さが変るだけで、水平見かけ位置には影響しないことです。

一方(2)の方法は、複数の海底局でアレイを組むのは同じですが、 音響測距の最中に移動を繰り返して多くの観測データを確保し、 アレイの位置と同時に音速構造を滑らかな時間の関数として解くというものです。 国内では海上保安庁名古屋大学のグループが採用しています。

我々東北大のグループでは、(1)と(2)の折衷案のような方法を採用しています。 基本的に(1)と同様の観測方法をとりますが、解析では(2)の方法をとります。 利点は、観測中にアレイの中心から外れたことによるアレイの見かけ位置の変化を補正できることです。 これは、我々が曳航式ブイを用いているため、 音響送信器を船体に直接取り付けているスクリップス方式と比べ、 中心での正確な保持が困難であることを補います。

いずれの観測方法でも、音響測距、キネマティックGPS測位等の偶然誤差を軽減するため、1日から1週間程度の連続観測を行い、 多くの測距回数を確保することが望ましいとされています。



● 国内の海底基準局の配置図

水路部・東北大・名古屋大の海底局 水路部の海底局配置の図
海上保安庁、東北大学、名古屋大学の海底基準局アレイの分布。 海上保安庁は1点のみの抜粋。他の点は右図参照。 各アレイは3ないし4つの海底局からなる。 海上保安庁の海底基準局アレイの分布。 国内で早くから観測に取り組んでいるため、多くの基準局を保有する。 海上保安庁発行季刊誌「水路」vol.32 No.3 (平成15年10月)より掲載


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